東京大学における研究紹介 CEE季刊誌 Newsletter 掲載内容より
前研究室
前真之准教授、赤嶺嘉彦特任助教、河野良坪特任助教
工学系研究科 建築学専攻

建築・土木とエネルギー・環境に関する研究

住宅の消費エネルギーは一貫して増加傾向にあります。1住戸 あたりのエネルギー消費全体では、1965年から2001年にかけての 約30年間に、18.2[GJ/年・戸]から46.7[GJ/年・戸]へと、実に3 倍近く伸びています。その多くは、冬場のストーブなどの「暖房」、 家電や照明などの「動力・照明」、そしてお風呂や台所で使う「給 湯」で占められています。冷房は現状においては少ないですが、気 候やライフスタイルの変化に合わせて今後増加する可能性がありま す。現在、エネルギー安全保障や地球温暖化防止の観点から、 住宅の省エネ化が極めて重要になってきています。
 当研究室では、住宅において多くのエネルギーを消費する暖房・ 冷房・給湯について、建物設計からはじまって、機器・設備から使 い方を含めて幅広く検討しています。図1、2省エネ住宅は世界に1軒あっ ても社会的な意味は限られます。多くの人に受け入れてもらうため には快適性・利便性の要素が不可欠であり、「省エネ性」と「快適 性・利便性」のバランスを検証しています。


研究テーマ:住宅エネルギー計画

実際の家ではどのような温熱環境・エネルギー消費になっているか?
写真1、2 より省エネで快適な住宅設計にむけて近年、快適で省エネな住 宅が求められていますが、運用時にどのような温熱環境が実現し ているかが明確に把握されていることが少ないのが現状です。ま た、たとえ把握されたとしても、それらの問題点や、その改善方法 が、設計段階に生かされていないことが多いです。住宅の快適性 向上と省エネルギーが実現するかどうかは、住宅を構成する「建物 条件」、「住まい方」、「設備」との関わり方で決まると考え、実住宅に おける実測調査・ヒアリングをもとに、シミュレーションによる予測を重 ねることで、設計段階にフィードバックしていくことを目指しています。


研究テーマ:暖冷房

効率のよい暖冷房方式は?
図3、4、5 住宅と設備の高性能・高機能化により、夏涼しく、冬暖かく過ご すことが可能になりました。ところで、エアコンや床暖房、放射式暖 冷房などさまざまな暖冷房機器が住宅で用いられ快適性がどんど ん向上している一方で、機器の消費エネルギーはどのようになって いるでしょうか。これらの快適性だけでなく、どれだけ省エネかとい うことにも注目し、実験室実験とシミュレーションにより機器性能と実 現される温熱環境を把握します。住宅と設備、そしてそれらとともに 生活する住まい手とのいい付き合い方を見つけ出し、より快適で省 エネな暮らしの実現を目指しています。


研究テーマ:通風

自然エネルギーを利用した冷房エネルギーの削減
写真3、4 建物の断熱性能や設備の高効率化による省エネルギーだけで なく、古くから実践されてきた「涼をとる」ための手法として、通風利 用があげられます。
 敷地の周辺状況(密集具合、配置)、建物の形、開口の位置な ど、風を取り入れるための要因は多種多様であり、設計段階に意 識的に計画することで通風促進が可能になります。
 「風洞実験」・「実住宅における実測調査」・「シミュレーション (COMIS・TRNSYS、CFD)」によって、風の流れの把握、通風に よる冷房負荷削減効果の予測などを行っています。


研究テーマ:給湯

図6 なかなか理解されていませんが、住宅の省エネルギーを考える 上で、3分の1を占める給湯における対応は不可欠ということになり ます。
 お湯の消費エネルギーを減らすにはどうしたらよいのでしょうか。 まず思いつくのは、使用するお湯の量そのものを減らすことです。 住宅で1日にどのくらいのお湯が使われているのかについては、いく つかの調査が行われています。一例を図6に、1世帯あたりの湯量 (40℃換算値)の形で示します。4人世帯の平均は、444.9 [L/日] で、およそ450Lくらいです。浴槽に1回はる湯量が約180Lですか ら、2回半程度ということになります。
 アンケート調査で、省エネに協力できる項目を聞いてみると、「冷 房する時間を減らす」など空調に関する項目には、多くの人が「我 慢できる」と回答します。ところが、「お風呂の回数を減らす」など給 湯に関する項目については、「我慢できない」という回答が多くなりま す。入浴などの湯使用については、衛生的な観念や家ごとの習慣 が強く出てくるため、今のスタイルを変えたくない人が多いのだと考 えられます。

写真5、6、7 お湯の消費が増える中、効率をあげることで消費エネルギーを 削減する「省エネ型給湯機」が続々と登場し、すでに普及段階に 入っています。自分(前)は住宅のエネルギーを修士のころから研 究してきましたが、省エネ型給湯機が登場した2001年以降、給湯 の研究分野が様変わりするのを目の当たりにしてきました。給湯の テーマは非常に地味に見えますが、実は非常に「ホット」なテーマな のです。
 当研究室では、豊富な実測データの分析を通して湯消費の実 態を解明し、典型的な使い方を抽出します。さらに、エコキュート(電 気ヒートポンプ)・エコジョーズ(潜熱回収型ガス)といった高効率給 湯機、さらには最新型の燃料電池(エネファーム)を含めて比較実 験を行い、実際にどの程度の効率が出るのか、省エネ給湯機は本 当に「省エネ」なのかを検証します。

CEE Newsletter No.7(2010.4) 掲載内容