東京大学における研究紹介 CEE季刊誌 Newsletter 掲載内容より

堀研究室

堀洋一教授
大学院新領域化学研究科・先進モビリティ研究センター

交通関連の研究

堀研究室のテーマは、電気自動車の制御、ワイヤレス電力伝送 システム、人間親和型モーションコントロールの3つである。機械制 御が開ループ制御を基本とするのに対し、電気制御の本質はフィ ードバック制御にある。単純な演算を短い制御周期で繰り返す電 気制御の力によって、機械系の特性は大きく変化する。この原理 をもとに、電気自動車やモーション制御の分野に、革新をもたらそ うともくろんでいる。最近はワイヤレス電力伝送に力を入れており、 将来の車の姿を大きく変えることになるだろう。

(1)電気自動車

電気モータの高速トルク発生を生かし、電気自動車で初めて可 能になる新しい制御の実現をめざしている。タイヤの増粘着制御 によって、低抵抗タイヤの使用が可能になる。4輪独立駆動車は 高性能な車体姿勢制御が実現できる。モータトルクは容易に知れ るから路面状態の推定も容易である。インホイルモータ4個を用い た高性能車「東大三月号-U」および「カドウェルEV」を製作し実験 を進めてきた。車体すべり角βの推定,写真1DYCとAFSの非干渉制 御などに力を入れている。最近キャパシタだけで走る「C-COMS T & U」および、電池駆動の「COMS V」を製作し、電気自動車の制 御に関する諸種の実験と、移動体におけるエネルギーストレージデ バイスとしての電気二重層キャパシタの可能性を探っている。研究内容として以下のようなものがある。
(1) 4輪車両における仮想重心移動の推定と制御、
(2) 電気自動車における車体すべり角の推定、
(3) Automatic Manual Transmissionに関する研究、
(4) 小型電気自動車を用いた運動制御に関する研究、
(5)ワイヤレス給電に関する研究、
(6)トルク垂下特性を用いた粘着制御に関する研究。


(2)ワイヤレス電力伝送システム

ワイヤレス電力伝送システムチームでは、磁界共鳴に基づく非 接触電力伝送の研究を行っている。写真2大エアギャップかつ高効率な 非接触電力伝送が可能で、いつでもどこでも電源ケーブル無しで 電力が得られる、ユビキタスエネルギー社会実現への扉が開けた と言える。電磁共鳴の基本的な原理を理解し、高効率・大エアギ ャップ・位置ずれに強い、という三拍子揃ったワイヤレス給電シス テム実現に向け研究を行っている。研究内容として以下のようなものがある。
(1)等価回路を用いた電磁共鳴の基本的現象の解明、
(2)電磁共鳴を実現するアンテナの提案、
(3)スイッチング素子を用いた高効率給電システムの作成、
(4)インピーダンスマッチングの原理に基づく電力伝送効率改善手法の提案、
(5)電気自動車向けワイヤレス給電システムの開発、
などである。


(3)人間親和型モーションコントロール

福祉分野を想定した独特の制御手法の開発を目論むもので、人間親和型モーションコントロールにもとづく福祉制御工学、という学術領域を作りたいと考えている。 現在行っている研究は、
(1) 介護ロボットのためのパワーアシスト技術の基本理論開発、
(2) 力センサレスインピーダンス制御による電動電車ドアの安全化制御、
(3) 状態推定オブザーバを利用したパワーアシスト車椅子の制御、
(4) 生物特有の二関節筋特徴のロボティクスへの応用、
(5) 二関節筋を有するロボットレッグの開発、
(6)二関節筋力学に基づく動物運動の解析、などである。写真3

CEE Newsletter No.8(2010.10) 掲載内容