東京大学における研究紹介 CEE季刊誌 Newsletter 掲載内容より

山冨・村上研究室

山冨二郎教授、村上進亮講師
工学系研究科システム創成学専攻

資源関連の研究

山冨・村上研究室では、資源開発工学(mining engineering)に始まり、現在はこれと関係する資源経済学、リサイクルによる物質循環に関わる制度研究、資源全般についての研究を推進している。個別のテーマとしては以下のようなものを行っている。

(1)坑内採掘における採鉱法に関する研究

坑内採掘の採算性の向上と岩盤安定による保安面向上を両立させるため、採掘空洞の力学的な解析、支保設計を行う。
 また、坑内高品位鉱床の実収率向上のための坑内充填の検討といったケーススタディも行う。フィールドでの研究が主体で、国内の坑内採掘鉱山にて実地研究を行っている。
 また、次世代ニュートリノ観測施設として、Hyper KAMIOKANDE が計画されており、100万m3を越える巨大空洞の建設プロジェクトにも参加している。

(2)長大残壁の安定性評価

大規模露天採掘鉱山の多くで形成されている残壁につい て、数値モデルを作成し安定性評価を行う。こちらも国内の露 天採掘鉱山をフィールドとして残壁のモニタリング、挙動解析を 行っている。
 残壁崩壊は事業者、地元地域にとって大きな問題である。 残壁長大化に伴い崩壊の被害も大きくなることから、崩壊の未 然防止、崩壊時の対処のための措置は鉱山運営にとって重要 なテーマである。

(3)鉱山開発のプロジェクト・環境影響評価

大規模長期プロジェクトである鉱山開発は、計画時に採算 面、保安面、環境面等を考慮した上で最適化を図ることが必 要である。これら諸々の要素を織り込んだ生産計画のアルゴリ ズム開発を行っている。環境影響については、通常現場で用 いる環境アセスメントとは若干意味合いが異なり、終掘後の環 境面の定量的な評価まで深化されている。こうしたツールを逆 にシミュレーションに用いることで、将来の鉱山現場からの環境 影響等を考えることも検討している。

(4)資源のマテリアルフロー・ストック分析

資源の流れをそのライフサイクルを通して定量的に把握する ことで、国内市場規模や潜在的な環境リスク等の資源使用に 関する実態を知ることができる。また経時変化を追えば、時代 における資源使用量の変遷と今後の傾向を窺うこともできる。
 これまでいくつかの金属に関してマテリアルフロー分析を実 施してきているところであり、現在では主要な金属のみならず、 低炭素社会へ向けて需要の拡大が予想されるようなレアメタル 類についても分析を行い、これをベースにした需要予測等も 行っている。

(5)3R関連制度の検討・提案と経済分析

携帯電話等から有価物を回収するための管理制度の構築 を研究している。アンケートによるユーザーの実態調査等でデー タ収集し、その結果を分析することで、より安定的かつ効率的 な資源循環を実現するための社会システム作りを目指している。
 資源経済学の視点から資源市場の分析を行ってきている が、昨今はそのアプリケーションとして、物質循環へどのような 影響を与えるかなどを、計量経済学的なアプローチからの分 析結果と、マテリアルフロー分析の結果を組み合わせモデル化 することで検討を行っている。例えば金融危機以降の資源循 環、特に貿易を伴うようなものについては、商品市場の影響が リサイクルに対して非常に大きく現れた事例もある。旧来の枠組みでモデル化しにくい内容については、マルチエージェントシ ミュレーション等も援用することで検討を行っている。
 具体的な精度としては、いわゆる都市鉱山に関する分野で、 物量は少ないが高品位のレアメタルを含む廃電子機器を効率 よく回収する制度について検討している。現状ではコスト面の 問題はあるが、限りある資源を有効活用する重要な研究であ る。これらの成果については、実際の制度設計の場への知見 の提供といった形で貢献を行っているところである。
CEE Newsletter No.9(2011.3) 掲載内容