東京大学における研究紹介 CEE季刊誌 Newsletter 掲載内容より

山口研究室

山口周教授
工学系研究科 マテリアル工学専攻

燃料電池の開発

固体酸化物形燃料電池の開発

中温域において動作可能な固体酸化物型燃料電池(SOFC)を 実現するためのプロトン機能性(プロトニクス)酸化物の研究を行っ ている.特に、ヘテロ界面付近で生じるイオンの静的/動的変調に よる“ナノイオニクス”効果に着目し、これを積極的に利用した材料 設計とその基礎科学の構築を目指している.
(1)新規低温合成プロセスによるプロトン伝導性ペロブスカイト型酸化物の合成
通常の酸化物セラミクスの作製プロセスでは高温焼成を避けら れず、微細な粒子から成るセラミクスを得ることが困難である.山 口研究室では金属アルコキシドを原料としたゾル‐ゲル法により酸 化物ナノ粒子を合成し、これを加熱せずに超高圧プレス(約 6GPa)することにより粒径10nm以下の粒子からなる酸化物緻密 体を作製する方法を開発した.
この低温合成プロセスをBaZrO3系などのプロトン伝導性ペロブス カイト型酸化物に適用し、イオン伝導性セラミクスにおいてしばしば 主要な抵抗要因となる粒界におけるイオン伝導特性を調べている. また、高温焼成を伴わないこのプロセスを応用し、低温でのみ安定 に存在する新規な高プロトン伝導性酸化物の開発も進めている.
(2)ナノ構造セラミクスにおける粒界プロトン伝導性の開拓
良好な酸化物イオン伝導体であり、プロトン伝導性を示さないこと が知られる、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)のナノ構造セラミクス を上記の低温合成プロセスにより作製したところ、500℃以下の湿 潤雰囲気においてプロトン伝導性が発現する事を見出した.プロト ン伝導度の粒径依存性や種々の物理化学的検討の結果から、こ の系におけるプロトン伝導経路は粒界であると推定され、低温合成 によるセラミクス構造の高度な微細化により得られたものであると考 えられる.現在は、このような低温合成セラミクスにおける特殊な粒 界の本質を追及するとともに、合成プロセスの最適化による更なる 微細化や界面修飾によって既存のプロトン伝導性酸化物を上回る 高プロトン伝導性材料の開発を目指している.
CEE Newsletter No.4(2009.4) 掲載内容